部下から上がってくる報告書や提案書のレビューは、管理職の時間を確実に削っていく仕事です。1件あたり15〜30分として、週に数件あれば、それだけで結構な時間になります。日中は会議で埋まり、レビューは夕方以降に回り、自分の仕事はさらにその後、という方も多いはずです。
生成AIを使うと、まず最初の通し読みを任せられます。当然、AIを使おうが使うまいがレビューの最終判断は管理職の仕事です。しかし指摘するポイントの候補を洗い出すパートをAIが受け持つことで、1件のレビューにかける時間を大きく減らせます。この記事では、1本のサンプル報告書を題材に、生成AIにレビューさせてから部下への差し戻しコメントを作るまでの手順を見てみましょう。
はじめに:前提と、入力してよい情報の線引き
手順はChatGPT・Claude・Gemini・Copilotのどれでもほぼ同じです。会社で利用が許可されているツールを使ってください。
もう1つ、レビュー対象の文書をAIに渡す前に、入力してよい情報の線引きを確認します。
- 顧客名・取引先名・個人名は、そのまま入力しない(「A社」「担当者」に置き換えるか、会社として契約し入力データが学習に使われない設定のツールを使う)
- 未公表の業績数値や人事情報を含む文書は、会社のルールで許可された環境以外に入れない
- 部下の人事評価に直結する文書(評価シートなど)は、レビュー効率化の対象にしない
なお、各ツールの企業向けプランなど、入力した情報がAIの学習に使われない環境で利用できるケースでは、固有名詞が入った情報もそのまま扱える可能性があります。自社の契約がどのプランで、どこまで入力してよいかは、情報管理部門などに確認することをおすすめします。
このあたりの社内ルールがまだ整っていない場合は、先にルールのたたき台を作ることをおすすめします(手順は生成AIの社内ルール(ガイドライン)のたたき台を1時間で作る手順で紹介しています)。
準備:レビューの観点を言語化する
生成AIにただ「レビューしてください」とだけ依頼すると、誤字脱字と表現の指摘が大量に返ってきて、かえって時間を取られます。なので、先に自身のイメージを3行で言語化しておきます。
- 読み手:この資料を最終的に誰が読むのか(例:経営会議の役員)
- 目的:読み手に何を判断・決定してもらう資料か(例:プロジェクトの継続可否)
- 観点:自分がレビューで必ず見るポイント(例:結論が先頭にあるか、数字に根拠があるか、など)
この3項目が、そのままプロンプトの材料になります。
手順1:観点を指定して通し読みさせる
レビュー対象の文書を貼り付け(またはファイルを添付し)、次のように指示します。
あなたは経験豊富な部長職です。以下の報告書をレビューしてください。
・読み手:経営会議(役員)
・資料の目的:◯◯プロジェクトの継続可否を判断してもらう
・観点:①結論が最初に書かれているか ②数字・主張に根拠があるか ③判断に必要な情報が抜けていないか ④論理の飛躍がないか
・指摘は重要度順に並べ、該当箇所を引用して挙げてください。誤字脱字は最後にまとめてください

ポイントは、観点を番号付きで明示することと「重要度順・該当箇所の引用付き」を条件にすることです。この条件を明記しておかないと指摘が羅列されるだけで、どれから対応すべきか自分で仕分けし直すことになります。
手順2:指摘を取捨選択する
生成AIのレビューは、人間より多くの指摘を返してきます。全部をそのまま部下に返すのは悪手です。細かい指摘の山を受け取った部下は、資料の根本的な問題ではなく表面的な修正に時間を使うことになります。
そこでAIによる指摘の中から「資料の目的に関わるもの」だけを選びます。続けてこう入力してみましょう。
この指摘のうち、資料の結論や意思決定に影響しうるものはどれですか。理由も添えてください
残った指摘について、内容が正しいかを自分の知識と照合して確認します。AIは資料上の論理は見ていますが、社内の事情や案件の経緯は知りません。報告する相手の性格も理解していません。「この根拠は先月の会議で共有済み」のような文脈は、管理職にしか判断できないケースもあります。ここがレビューにおける人間の仕事です。
なお、管理職研修でこの手順を紹介すると、「世代が違う部下にどう伝えたらよいかを相談できるのがありがたい」という声を多くいただきます。指摘の中身だけでなく、伝え方の相談相手としても生成AIは役に立ちます。次の手順が、まさにその「伝え方」の部分です。
手順3:部下への差し戻しコメントに整える
採用する指摘項目を精査したら、部下に返すコメントの下書きも生成AIで作ります。
採用する指摘は①と③です。部下に返す修正依頼コメントを作成してください。
・最初に、資料の良かった点を1つ具体的に伝える
・修正依頼は「どの箇所を・なぜ・どの方向で直すか」の順で書く
・命令口調にせず、300字以内

出力された内容をそのまま部下に送るのではなく、自分の普段の言い回しに修正してから返します。整いすぎた文面は、受け取る側に距離を感じさせます。
そのまま使えるプロンプトの型
報告書用と提案書用の2パターンです。「読み手・目的・観点」を差し替えて使ってください。
報告書のレビュー
あなたは経験豊富な部長職です。以下の報告書をレビューしてください。
・読み手:(誰が読むか)
・資料の目的:(何を判断してもらうか)
・観点:①結論が最初にあるか ②数字・主張に根拠があるか ③判断に必要な情報の抜け ④論理の飛躍
・指摘は重要度順に、該当箇所を引用して。誤字脱字は最後にまとめて
提案書のレビュー
あなたは提案を受ける側の企業の決裁者です。以下の提案書を読み、発注をためらう理由を重要度順に挙げてください。あわせて、決裁者から出そうな質問を5つ作ってください
提案書は「レビューする側」ではなく「受け取る側」の視点で読ませると、社内レビューでは出ないような指摘が返ってきます。想定問答は、部下の商談準備にもそのまま渡せます。
AIの指摘を鵜呑みにしないためのポイント
最後に、この手順を運用するうえでの注意点です。
- AIの指摘にも間違いがある:もっともらしい表現で誤った指摘をすること(ハルシネーション)があります。事実関係に関わる指摘は必ず自分で確認してから部下に返します
- 形式面に寄りやすい:生成AIは構成や表現の指摘が得意な一方、「この提案はそもそも筋が悪い」という事業判断はできません。筋の良し悪しの判断は従来どおり管理職の仕事です
- 部下への伝え方までAI任せにしない:AIが出力した差し戻しの文面は下書きとして使い、最後は自分の言葉に直します。レビューは資料の修正だけでなく部下の育成の場でもあるためです
今回は部下の資料を生成AIでレビューする手順を紹介しました。通し読みと指摘の洗い出しをAIに任せ、管理職は「指摘内容の取捨選択」と「部下への伝え方」に集中する、という分担で進めると、レビューにかける時間は減り指摘の質が上がります。浮いた時間は、資料の先にある判断そのものに使ってください。
管理職の生成AI活用の全体像は、「管理職の生成AI活用 完全ガイド」で紹介しています。
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